なぜ、自社にDX人材がいないのか──「一人で全部できる人」を探していませんか

「うちにも、そういうのに詳しい人が一人いてくれたらな」

業務改善やデジタル化の話をしていると、社長からよく出てくる言葉です。

気持ちはよく分かります。パソコンにもシステムにも強くて、うちの仕事の中身も分かっていて、現場ともうまくやってくれる。そういう人が一人いれば、話は早い。求人を出したことがある会社も、あるかもしれません。

そして、たいてい見つかりません。

今日は、その理由の話をします。結論から言うと、それは御社が田舎の中小企業だからではありません。

大企業でも、見つかっていない

先日、DX人材の採用を専門にしている会社の方のインタビュー記事を読みました。大企業を中心に、五百社以上の採用を支援してきた方です。

そこにこう書かれていました。多くの企業は、市場にほとんど存在しない人物像を求めてしまっている、と。

どういうことか。企業が求人票を書くとき、こうなりがちなのだそうです。ITの知識があって、経営の視点も持っていて、現場を巻き込む力もあって、プロジェクトも回せる。一つひとつは、もっともな条件に見えます。

けれど、それを全部満たす人は、市場にほとんどいない。本来なら何人かで分担する役割を、一人に求めてしまっているのです。

資金力のある大企業が、専門の採用支援会社を使って、それでも見つからない。この時点で、これは会社の規模の問題ではないと分かります。

探しているものが、そもそも珍しすぎるのです。

「一人分の仕事」ではなかった

私は25年間、ITベンダー、メーカーの営業、事業会社の管理部門と、三つの立場を渡ってきました。

その経験から言うと、「ITも経営も現場も分かる人」というのは、一つの職種ではありません。いくつかの職種を、何年もかけて通ってきた結果として、たまたまそうなっている人です。

私自身、最初からこの三つが分かっていたわけではありません。ベンダーにいた頃は、現場が使ってくれない理由が分かりませんでした。営業になって、初めてお客様の都合というものが見えました。管理部門に移って、数字と現場のあいだで板挟みになる感覚を知りました。

順番に、一つずつです。

だから、求人票にこれを書くと、実質的には「25年分の経歴」を募集していることになります。見つからないのは、当然でした。

その人が来たとして、任せられるか

もう一つ、見落とされやすい話があります。

仮に良い人が採用できたとして、その人に、DXだけをやってもらえるかということです。

先ほどの記事でも、これが失敗の典型として挙げられていました。現場の仕事を持ったまま兼務させてしまい、結局DXが進まない、と。

業務を変えるという仕事は、現場に話を聞いて、何が詰まっているのかを整理して、関係者の間を調整して、入れた後も使われているか確かめて回る。手が空いたときにやる作業ではなく、それ自体が一つの仕事です。

中小企業で、一人分の人件費を丸ごとそこに充てられる会社が、どれだけあるでしょうか。多くの場合、既存の誰かの兼務になります。そして、その人はすでに忙しい。

つまり採用できたとしても、置き場所がない。ここまで含めて考えると、「詳しい人を一人」という発想そのものに、無理があったと分かります。

必要なのは、人ではなく機能

ここで、考え方を少し変えてみます。

社長が本当に欲しかったのは、「そういう人」ではなく「そういう働き」のはずです。詰まっているところを見つけてくれて、何から手を付けるか整理してくれて、現場に定着するまで付き合ってくれる。その働きさえあれば、それが自社の社員かどうかは、実はどちらでもいい。

人を採るとなると、給与も、席も、その人の五年後も引き受けることになります。中小企業にとっては、かなり重い判断です。

けれど「必要なときに、必要な分だけ関わってもらう」なら、話は軽くなります。

先ほどの記事にも、印象的な一文がありました。DXの方法論や専門知識は外部から補えるが、「何のためにやるのか」は企業自身にしか定義できない、と。

裏を返せば、外から補えるものは、無理に中で抱えなくていいということです。

見つからなくて、正解だった

「うちにはDXに詳しい人がいない」

この言葉には、たいてい少しの引け目が混じっています。時代に乗り遅れている、うちは遅れている、という感覚です。

でも、ここまで見てきたとおり、それは御社だけの話ではありません。大企業でも見つかっていない人を、探していただけです。

むしろ、見つからないまま採用を急がなかったのは、結果として悪くない判断だったかもしれません。急いで採って、置き場所がなくて、一年で辞められる。それが一番、痛い。

足りていないのは、人材ではありません。

その働きを、誰にどう担ってもらうか。決めていなかっただけです。

そう捉え直したとき、次の一歩は、求人票を書くことではなくなります。まず、何が詰まっているのかを見てみる。それだけなら、今日からでも始められます。

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