経営の話と、システムの話は、なぜ噛み合わないのか──足りないのは能力ではなく、「通訳」かもしれない

「いいシステムを入れたのに、現場で使われていない」

「業務を良くしたいけれど、何をどう頼めばいいのか分からない」

経営者の方から、こんな話をよく聞きます。

DXやAIという言葉を目にしない日はありません。補助金を使ってツールを導入した、という話もあちこちで聞きます。それなのに、「入れてよかった」という声より、「入れたけれど、うまくいっていない」という声のほうが、正直、多い。

なぜでしょうか。

悪いのは、誰なのか

うまくいかないと、人は原因を探します。

「現場が新しいものを嫌がるからだ」

「ベンダーがうちの業務を分かっていないからだ」

「社長が現場を見ていないからだ」

どれも、少しずつ当たっていて、どれも、たぶん外れています。

私は25年間、ITベンダー、メーカーの営業、事業会社の管理部門という三つの立場で、企業の現場を見てきました。そこで繰り返し見たのは、誰も間違っていないのに、話が噛み合わないという光景です。

社長は、売上と利益と、会社の五年後の話をしています。

現場は、今日の受注と、目の前のお客様の話をしています。

システム会社は、仕様と機能と、納期の話をしています。

全員が真剣で、全員が正しい。ただ、話している言語が違うのです。

経営の言葉と、システムの言葉

「大きな問題は、一つの専門分野だけでは解けない」と言われます。

会社の業務改善は、まさにそういう問題です。経営の知識だけでも解けないし、ITの知識だけでも解けない。両方の言葉が分かって、初めて話がつながります。

ところが、世の中の仕組みは、そうなっていません。

経営課題を整理する専門家は、分析や計画づくりが得意ですが、システムを作るところまでは踏み込まないことが多い。逆に、システムを作る会社は、作ることのプロですが、「そもそも何のために作るのか」という経営の整理から入ることは、あまりありません。

整理する人と、作る人が、別々なのです。

支援の現場にいる方々と話をしても、同じ話になります。どちらの専門家もいる。足りないのは、その「間」をつなぐ人だと。

間がつながらないと、何が起きるか。

社長の「もっと良くしたい」という想いは、現場に届くころには「また仕事が増える」に変わっています。現場の「ここが大変なんです」という声は、システム会社に届くころには、仕様書の一行に痩せています。

新しい仕組みを入れるときは、それぞれの立場にとって「これで何が良くなるのか」が見えていないと、話は前に進まない。現場に説明が浸透するまで、何度も個別に話した経験があります。

足りないのは能力ではなく、「通訳」

ここまで読んで、心当たりのある方もいるかもしれません。

会議で、経営の話とシステムの話がすれ違っている。誰かが悪いわけではなさそうなのに、前に進まない。

もしそうなら、それは御社の能力の問題ではありません。社長の理解が足りないのでも、現場が頑固なのでも、ベンダーが不誠実なのでもない。

ただ、間に「通訳」がいないだけです。

言葉が違う者同士の会議に通訳がいなければ、話が進まないのは当たり前です。逆に言えば、通訳さえいれば、それぞれはすでに十分な力を持っている。社長には経営の判断力が、現場には業務の知恵が、システム会社には作る技術が、ちゃんとあるのですから。

うまくいかない原因に名前が付くと、少し楽になります。

「うちは遅れている」ではなく、「うちには通訳がいなかった」。

そう捉え直せたとき、次の一歩は、思っているよりずっと小さくて済むはずです。

コラム一覧へ戻る