なぜ、AIに聞いた数字は、会議の数字と合わないのか──同じ「完了」が二つある

会議の前に、AIに案件の一覧を読み込ませて、「今月、完了したのは何件?」と聞いてみる。答えはすぐに返ってきます。

ところが、会議で経理の担当が出した件数と合いません。どちらかが間違えたのかと思って調べてみると、どちらも合っていました。

今日は、AIに仕事を渡す前に、社内で使っている言葉の意味をそろえる話をします。

「完了」が二つある

たとえば、こんな会社を考えてみます。

営業の担当は、納品したら「完了」と言います。お客さんに納め終えた時点で、自分の手を離れるからです。

経理の担当は、入金を確かめたら「完了」と言います。お金が口座に入るまで、仕事は終わっていないと考えるからです。

二人とも、自分の仕事の終わりを正しく言っています。どちらかに言い直させる話でもありません。ただ、同じ「完了」という言葉の中に、納品から入金までの、ひと月かふた月の幅が入っています。

月末に営業の担当が「今月はずいぶん片づいた」と言い、経理の担当が「まだ半分も入っていない」と首をかしげる。二人とも、同じ月の同じ仕事を見て話しています。

人どうしなら、ずれていても回っていた

このずれは、人どうしの会話ではあまり問題になりません。

人は、話し手を見て言葉を読み替えています。営業の担当が「先週、三件完了しました」と言えば、納品の話だと分かる。迷えば「それ、もう入金まで済んでる?」と聞き返します。長く一緒に働いている会社ほど、言葉の意味は口に出さないまま共有されています。

今日の話の芯は、一つだけです。言葉のずれは、AIが来る前から社内にありました。AIは、それを目に見える形にしただけです。

AIは聞き返さず、一つだけ答える

AIは、相手の顔を見て読み替えることができません。「完了」と言われれば、一覧の中身や前後の言葉から、どちらの意味かを推し量ります。そして、もっともらしい数字を一つだけ返します。

一覧の「状態」の欄に、営業の人と経理の人がそれぞれの感覚で「完了」と入れていれば、二つの意味が一つの列に混ざっています。AIは、それをまとめて数えるしかありません。

困るのは、その答え方がとても落ち着いていることです。「納品の意味なら何件、入金の意味なら何件」と二つ並べてくれることは、あまりありません。だから、ずれに気づくのは、会議で数字が合わなかったときになります。

同じことは、ほかの言葉でも起きます。「売上」は、注文を受けた日で数えるのか、納めた日か、入金の日か。税込みか、税抜きか。「お客さん」は、一度でも買ってくれた相手すべてなのか、今も取引が続いている相手だけなのか。「今月」も、締め日が二十日の会社なら、カレンダーの月とは区切りが違います。

では、もっと賢いAIに替えれば片づくのか。そうはなりません。どちらの「完了」を使うかは、その会社にしか決められないからです。

決めるのは、人の仕事

私は、AIに数字の仕事を渡す前に、まず言葉の意味を決めることを勧めます。

決めるといっても、どちらか一つにそろえる必要はありません。営業の「完了」も経理の「完了」も、それぞれの仕事には欠かせない意味です。それなら、名前を分けてしまえばいい。「納品済み」と「入金済み」にすれば、二つの完了はどちらも残り、AIも迷いません。

以前、経営の話とシステムの話のあいだには「通訳」がいる、と書きました。AIとのあいだでも、同じことが起きています。違うのは、AIの側からは聞き返してくれないことです。言葉の意味は、こちらから先に渡しておくしかありません。

聞くたびに「ここでの完了は、入金を確かめたもののこと」と書き添えることもできます。ただ、それでは聞く人ごとに書き方がばらつき、書き忘れも出ます。言葉の意味は、最初に一度、AIに渡しておく。 多くのAIには、いつも読んでおいてほしいことを書いておく場所があります。そこに社内の言葉の決めごとを置いておけば、誰がいつ聞いても、同じ意味で答えが返ってきます。

私自身も、AIを使うときは、毎回説明するのではなく、仕事で使う言葉の決めごとを最初に書いて、AIがいつも読む場所に置いています。

まずは、三つの言葉だけ

社内の言葉を、全部そろえる必要はありません。最初は三つで足ります。

おすすめは「売上」「完了」「お客さん」です。紙を一枚用意して、それぞれの言葉の横に「うちでは、〜のこと」と一行ずつ書きます。税込みか税抜きか、締め日はいつか、といったところも、思いついたら書き添えておきます。

書いたら、営業の人、経理の人、現場の人に見てもらいます。「自分は、そういう意味で使っていなかった」という声が出たら、そこがずれていた場所です。 どちらが正しいかを言い合う必要はありません。両方の意味が要るなら、名前を分けて残します。

この一枚が、そのままAIに最初に渡す決めごとになります。人に仕事を説明するときの土台にもなります。

最後に

今日の話をおさらいします。

  • 同じ言葉を、社内の人が別の意味で使っていることがある。どちらも間違ってはいない
  • 人は読み替えたり聞き返したりできるが、AIは一つの意味を選んで、もっともらしく答える
  • ずれは前から社内にあり、AIはそれを見えるようにしただけ。意味を決めるのは人
  • 決めた意味は、聞くたびに添えるのではなく、最初に一度AIに渡しておく

AIは、これからも賢くなっていきます。それでも、うちの会社で「完了」が何を指すのかは、AIには決められません。言葉の意味さえ渡しておけば、AIはその言葉どおりに働いてくれます。

まずは、三つの言葉の意味を、紙一枚に書き出してみましょう。

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