「うまく答えてくれないので、指示をもっと細かく書くようにしたんです」
ある方から、そんな話を聞きました。
AIに文章をまとめてもらおうとしたが、思っていたものが出てこない。そこで注意書きを一つ増やした。それでも直らないので、また一つ増やした。気がつけば、指示のほうが、出てきた文章より長くなっていた。
それでも、答えは良くならない。むしろ、前より的外れになった気さえする。
なぜでしょうか。
洗濯機のダイヤルを、自分で回していたころ
昔の洗濯機は、水の量も、洗う時間も、自分で決めていました。今日は汚れがひどいから長めにしよう、量が少ないから水は控えめに、といった具合に。決めなければ動かなかったからです。
いまの洗濯機は、洗濯物の重さを量り、汚れ具合まで見て、自分で水の量を決めます。
それでも昔のクセが残っていて、いちいち手で設定を変えたらどうなるか。機械が測って出した答えを、こちらが上書きしてしまいます。水が足りずに汚れが残ったり、逆に無駄に長く回ったり。
丁寧に設定したのに、任せたときより悪い結果になる。 手を抜いたからではなく、手を出したからです。
指示が悪かったのではありません。相手の性能が変わったのに、こちらの伝え方だけが昔のままだった、というだけのことです。
「確認してください」が、じゃまになるとき
AIへの指示に、こう書き添えている人は多いと思います。
「最後に間違いがないか確認してください」「もう一度見直してください」
数年前は、これが効きました。当時のAIは、言われなければ見直さなかったからです。
ところが、いまのAIは言われなくても見直しています。そこへ「見直せ」と重ねると、AIは見直すという作業そのものを仕事だと受け取ります。すると何が起きるか。中身を良くする代わりに、「確認しました。問題ありません」という報告のほうが立派になっていきます。
体裁は整っている。けれど、こちらが本当に欲しかったものからは遠い。
会議で「念のため、もう一度確認しておいてください」と言った結果、確認したという報告書だけが増えていく。あれと同じことが、画面の中でも起きています。
消してよい確認と、残すべき確認
では、確認をすべてやめればいいのか。そうではありません。見分ける線が一本あります。
AIの頭の中だけで終わる確認は、消してよい。 見直す、考え直す、もう一度検討する。これらは、いまのAIが自分でやっています。
外の何かを見にいく必要がある確認は、残す。 この数字は今年の資料と合っているか。この書き方は社内の規定に反していないか。取引先の名前は正しいか。こうしたことは、こちらが「ここを見て」と指さない限り、AIには確かめようがありません。
そのうえで、指示に残しておきたいものは二つだけです。
一つは目的。何のために、誰に向けて作るのか。もう一つは範囲。どこまで触ってよくて、どこから先は変えてほしくないのか。
この二つが書いてあれば、細かい手順は要りません。逆にこの二つがないまま手順だけを増やすと、指示は長いのに何をしたいのか分からない、という状態になります。
これは、人に仕事を頼むときの話でもある
私が携わった現場でも、似たことがありました。
新しく入った人に仕事を渡すとき、手順書を厚くすればうまくいくと思っていた時期があります。ところが実際は、書いてあることはその通りにやってくれるのに、書いていない場面で止まってしまう。そのたびに手順書がまた厚くなる。
止まった理由は、その人の理解力ではありませんでした。この仕事が何のためにあるのかを、渡す側が一度も言っていなかっただけです。
目的を先に伝えるようにしてから、手順書はむしろ薄くなりました。書いていない場面に出くわしても、「たぶん、こういうことだろう」と自分で埋めてくれるようになったからです。
AIへの指示で起きていることも、たぶん同じです。相手が人でも道具でも、判断できる相手に手順だけを渡すと、判断する力のほうが眠ってしまいます。
まず、一行消してみる
大がかりなことをする必要はありません。
いつも使っている指示文を開いて、「確認してください」「見直してください」と書いた行を、一度消してみてください。
そして、代わりに一行だけ足します。
「これは、○○のために使います」
それだけで、返ってくるものが変わることがあります。変わらなければ戻せばいいだけで、失うものは何もありません。
増やすより、減らす
AIがうまく動かないとき、私たちはつい何かを足そうとします。注意書きを足す、条件を足す、念のための一文を足す。
けれど、うまくいかない原因が「言い足りないこと」ではなく「言いすぎていること」なら、足すほど遠ざかります。
全自動の洗濯機を買ったばかりのころ、しばらくは自分でコースを選んでいた人も多いと思います。任せて大丈夫だと分かったのは、一度任せてみたあとでした。
指示を書き足す手が止まらなくなったら、一度だけ、消す側に回ってみましょう。