朝、スマホでニュースを開くと、「不正アクセス」「個人情報が流出」という見出しが並んでいます。読み進めると「AIを使った攻撃」という言葉が出てきて、なんとなく落ち着かないまま仕事に向かう。そんな朝が増えた気がします。
今日は、AIを使ったサイバー攻撃のニュースを、どう受け止めればいいかの話をします。
AIのせいにすると、話が遠くなる
ここ最近、AIを使ったサイバー攻撃や、企業から個人情報が漏れたというニュースを目にする機会が増えました。アメリカでは2026年4月、AIがソフトの弱点を次々に見つけられるようになったことを受けて、財務長官と、中央銀行にあたるFRBの議長が大手銀行のトップを集め、備えを呼びかけたと報じられました(Claims Journal 2026年4月13日)。
AIを使った攻撃は新しい脅威です。国や企業が大きな手を打つ必要があるのは、そのとおりだと思います。
ただ、ニュースを読んでいて、少し引っかかることがあります。何でも「AIのせい」で片づけてしまう空気です。AIのせいにすると、話は手の届かない遠くへ行ってしまい、自分の会社で何ができるのかが見えにくくなります。
鍵の壊れた勝手口
自分の家で考えてみます。ついかけ忘れる2階の窓の鍵。壊れたまま、つっかい棒で押さえている勝手口。どの家にも、1つくらいはあるかもしれません。
それでも長いあいだ何も起きなかったのは、そこまで確かめに来る人が、ほとんどいなかったからです。AIで変わったのは、ここです。家の前を通って、窓や勝手口を1軒ずつ確かめていく目が、急に増えました。それも、一晩で町じゅうの家を回れるほどの速さです。
開いていたのは前からで、変わったのは見つかるまでの早さのほうです。今日の話の芯は、これだけです。AIが穴を作ったのではありません。開いていた穴を、AIが見つけやすくしただけかもしれません。
穴は、前から開いていた
ニュースの中にも、そう読めるものがあります。ある企業では、社内の専門家が前から弱点を指摘していたのに、対策が終わる前に攻撃された、と報じられました(J-CAST 2026年10月26日ほか)。
2026年10月21日には、国家サイバー統括室などが、PHPという仕組みに重大な弱点が見つかったとして、更新をすぐに当てられるよう準備を呼びかけました。PHPは、ホームページを動かすのによく使われている仕組みです。この弱点を見つけるのにはAIも使われましたが、そのうち1件の兆しは、2024年の点検ですでに見つかっていたと報じられています(IPA 2026年10月21日、piyolog 2026年10月21日)。古いバージョンのまま使い続けていると、直すための更新そのものが用意されないこともあります。
AIが強くなっても、基本の手入れの値打ちは下がりません。むしろ上がっています。見つかるのが早くなったぶん、開けたままにしておける時間が短くなったからです。
誰でもできる、基本の手入れ
1つ目は、更新です。パソコンやスマホ、使っているソフトやツールに「更新があります」と出たら、後回しにせずに当てる。壊れた鍵を直しておくことにあたります。
2つ目は、アカウントの守りです。パスワードに加えて、スマホに届く番号などで、もう一度本人かどうかを確かめる2段階認証を入れる。玄関の鍵を2つにするようなものです。同じパスワードを、いくつものサービスで使い回すのもやめておきます。1本の合鍵で家も倉庫も車も開く状態は、その鍵を落としたときがいちばん怖い。
3つ目は、一人ひとりのITリテラシー(フィッシングメール、ショルダーハッキングへの備え)です。フィッシングメールは、本物そっくりの差出人を名乗って、偽のページへ誘うメールのことです。「至急」「今日中に」と急がせるメールのリンクは、すぐに押さないようにします。ショルダーハッキングは、肩越しに画面や暗証番号をのぞき見る手口で、人の多い場所でパソコンやスマホを開くときは、後ろの目を少し気にかけます。
どれも、AIが来る前から言われてきたことばかりです。新しさがないぶん、後回しにされてきました。
後回しには、理由がある
私が携わった現場でも、更新のお知らせが出ているのに、「今は手が離せない」「更新して動かなくなったら困る」と、そのままになっていることがありました。
後回しにした人は、目の前の仕事を止めないほうを選んでいただけで、それ自体はまっとうな判断です。足りなかったのは、誰が、いつ更新を確かめるのかという決めごとでした。
私は、AIの攻撃に備える大きな話の前に、この基本の手入れを先に済ませることを勧めます。国や企業が打つ大きな手も、一人ひとりの小さな手入れが土台にあって、はじめて効きます。社内でAIを使い始めるときのルールも、同じ土台の上に乗る話です。会社のホームページの仕組みや、社内のネットワークの設定といった先の話は、専門の人に任せてください。
まずは、2つの画面を開いてみる
今週、2つの画面を開いてみてください。
1つは、Googleアカウントの「セキュリティ診断」です。Googleアカウントの管理画面の「セキュリティ」の欄から開けて、最近のログインの状況や、2段階認証が入っているか、保存しているパスワードに問題がないかなどを、順に点検できます。2段階認証を勧められたら、そのまま入れてしまえば十分です。
もう1つは、Windowsの「信頼性モニター」です。スタートの検索欄に「信頼性」と入れると、「信頼性の履歴の表示」が出てきます。本来は、アプリが止まった、更新に失敗した、といった出来事を日付ごとに並べて見る画面です。ここでは、Windowsの更新がきちんと当たっているか、失敗したままになっていないかを確かめます。
全部を一度に片づける必要はありません。鍵を1つ直せば、その窓はもう、いくら確かめられても困りません。
最後に
今日の話をおさらいします。
- AIを使った攻撃は新しい脅威で、国や企業が大きな手を打つ必要はある
- ただ、AIが穴を作ったのではない。開いていた穴を、見つけやすくしただけかもしれない
- 見つかるのが早くなったぶん、基本の手入れの値打ちは上がった
- 更新・2段階認証・一人ひとりのITリテラシーは、誰でもできる。その先は専門の人に
AIによるサイバー攻撃は、たしかに脅威です。それでも、自分の家の窓の鍵は、自分で閉められます。
まずは、自分でできるセキュリティから始めていきましょう。手始めに、2つの画面を1度ずつ開いてみてください。